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マレビトの引き出し

[稀人舎]読み物コーナーです。 和風ファンタジー連載中。

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最新号はこちら→第六章・アシワラノヤチノサト-33   最初からお読みくださる方はあらすじから。 目次一覧はこちらです

「葦原を流れゆくモノたち・其ノ一」は完結しました。
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「素戔鳴流離譚・其ノ一」(すさのおりゅうりたん・そのいち)は、完結しました。
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第八章・西のホラ -16

「あ、そういえば、おめー、
 桃くせえ! 桃くせえぞ!

シナツヒコが鼻の付け根に皺を寄せて、
サギリの胸のあたりを嗅ぐ仕草をして大袈裟に喚いた。
サギリはもう鼻が馴れてしまったのか、
自分が桃の匂いをさせていることを忘れていた。
言われて襟元に鼻先を突っ込んで、
その濃く甘い匂いにむせそうになった。

「桃を、食べていたんですか? そのおばあさま、が?」

ワカサヒコは、なにやら考え考え言っている。

「そうだよ。すごい大好物みたいだった。あたしが投げた桃の実に、バッて飛びついて、もうこっち振り向きもしないで食べてたもん。だからあたし、もうひとつちょっと離れたとこに置いて、そんでもって走ってきたんだよ」

サギリの右手には三個目の桃がまだ握られていた。
走っているうちに無意識に強く握りしめていたらしく、
手を開いて見てみると、表面には薄くサギリの指の跡がついていた。

「クラオカミの爺さんに、また助けられたな」

「しかし、桃を食べていた、となると……」

ワカサヒコはまだ考えている。

「ああ、狐の奴とは違うってことだな」

シナツヒコも我に返ったように、うなずく。

「なに? どういうこと? 狐の時も桃で助かって、今度も桃で助かったじゃん? なにが違うの?」

「狐は、桃に近付けなかったんですよ。サギリが桃の結界に入ったら、見えなくなっていたでしょう。見えないモノは食べられません」

「でも、今度のババアは桃が大好物だった、と」

「あ」 

「ね?」

「な?」

サギリの手の平の桃の実を真ん中にして、三人の視線が交わる。
桃は、もう光を発してはいない。
ごく普通の、よく熟した桃の実に見えた。

「桃の実には、魔よけの力があると言われているんです」

「ただし、そりゃ異国の言い伝えなんだわな」



[第八章・西のホラ -17]へ、つづく

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