忍者ブログ

マレビトの引き出し

[稀人舎]読み物コーナーです。 和風ファンタジー連載中。

お知らせ
「素戔鳴流離譚・其ノ二」(すさのおりゅうりたん・そのに)、連載開始!
最新号はこちら→第六章・アシワラノヤチノサト-33   最初からお読みくださる方はあらすじから。 目次一覧はこちらです

「葦原を流れゆくモノたち・其ノ一」は完結しました。
最終回はこちら→[第八章・西のホラ -47]   最初からお読みくださる方はあらすじから。 目次一覧はこちらです。

「素戔鳴流離譚・其ノ一」(すさのおりゅうりたん・そのいち)は、完結しました。
最終回は、こちらです。→[終章 -15]  最初からお読みくださる方はあらすじから。 目次一覧はこちらからどうぞ。

 ←ランキング参加しています。上位に食い込めたら、こいつも有名ブログの仲間入りっ!?
よろしくです。(涙目)

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第四章・彼女のお宅訪問 -2

東京駅から新幹線で約二時間。
ローカル線に乗り換えて、一時間。

駅を挟んで片側が田んぼ、反対側が街、
みたいな小さな地方都市の駅におり立つ。

その駅前のちっこいロータリーに、マイクロバスが止まっていた。
ピンクのペンキがちょい剥げかけ。
近くの旅館の送迎バスかと思ったら、路線バスだというんで驚いたよ。

そのバスで、田んぼの中をトコトコとまた一時間以上。
山のふもとのちんまりとした集落に着いたのは、
昼もずいぶんとまわった時間だった。
結構朝早い新幹線に乗ったんですけどね。日本も広いね。
集落の中のメインストリート(おそらく)をさらに走り、
山を背にしたどんづまりに、その神社、つまりミトちゃんの家はあった。

鳥居の真ん前でバスが止まる。
後払いシステムなんで、いくらなのか料金表を見たけど、
ここはなんてバス停なんすか?
外を見てもバス停らしきものはないしー。

「この、一番最後の料金でいいのよ~」

ミトちゃんが教えてくれた。

「タカちゃん~、ありがとうね~」

「なんのなんの~。他にお客さん、いなかったからねえ~」

あ、そうなんだ。
本来の路線バスのルートはこの前のバス停のところまでだったのだけど、
乗客が俺たちだけだったもんで、知り合いの運転手さんが、
ちょい先のミトちゃんの家の前まで乗りつけてくれたと、
こういうことですね。

素晴らしきかな、田舎の人間関係。

でも、いいのか? バスの時間とか。時刻表とかないのか?
……いいんだろうな。ここでは。
そんなのんびりな気持ちになる、
日本昔話的風景がまわりに広がっている。
茅葺き屋根の家まであるよ、おい。

そして、目の前には結構古くて立派な、石造りの鳥居。
鳥居をくぐると、すぐに石段が続いている。あちこち崩れていたり、
でこぼこだったりして、かなりの年代ものっぽい。
石段の両脇に並ぶ杉の大木が陽をさえぎっていて薄暗く、
ひんやりと涼しい。背中の汗が引いていく。

山のふもとにある神社と聞いてたけど、
ここはすでに山の中のようですよ。深山幽谷って感じ?

息があがって「まだ~あ?」と言いそうになったそのとき、石段が終わった。
登ってきた狭い石段の先にこんな場所があるなんてちょっとびっくりの、
広い境内が目の前に現れる。
しかも明るい。
深山幽谷の薄暗さに慣れた目がチカチカした。
正面には大きなお社。入り口の鳥居と石段の古さから、
どんな古い神社なのかと思ったら、意外と新しいきれいな建物だ。
その右隣に普通の家がくっついて建っている。
これも瓦屋根の日本家屋だけど、新しっぽい。
あたりの境内も平らに整地されていて、
平らな石畳なんかが敷き詰められていたりして、なんというか現代風だ。

「きれいな神社だね……」
他に言いようがないので、無難な感想を述べてみた。
ほんと言うとちょびっと残念な気持ち。
古い建築物って、俺、好きなんすよ。

「以前はね~、江戸時代に建てられたっていう 
ボロボロのお社だったらしいですけど~、 
わたしが三つのときに火事になってしまって~、 
みんな焼けてしまったのですって~」

「それは、なんというか、大変だったねー」

「わたしは全然覚えてませんけれど~」

そらそうだろうけどさ。
すんません。今のは社交辞令ですー。

お賽銭でもあげて参拝したりするべきなのかなーっと考えていると、
右側の家から女性がひとり出てきた。

「あらミトちゃん、あらミトちゃん、
早かったじゃない、早かったじゃない~。
そちら、その高木さん? 高木さん?
あらあらあらあら、いらっしゃい、いらっしゃい~」

言葉を二回ずつ繰り返すのが、この地方の作法とか?

「まあまあ本当に、遠いところをきていただいてー、
ありがとうございますー」

あ、作法じゃなかった。よかった。
「はじめまして、はじめまして。高木です、高木です~」
って言わなきゃいけないのかと思って、心の中で練習してたよ。

「はははは、はじめまして。高木でしゅー」

緊張して「しゅー」って言っちゃいました。

「ミトの母でございます~」

言われなくともわかりますよっ。
だって、もう、そっくりなんてもんじゃなく、そっくり!
顔も体型も声も!
これで他人だって言われたら、
世の中なにを信じたらいいのかってくらいそっくり。
まあ、ミトちゃんよか年取ってるなってこたー見ればわかるけど、
でも太ってる人って年齢がわからないからね。
双子ですーとか言われても納得しちゃうかも……。
いやホント。お世辞でも大げさでもなく。

遺伝子の仕事、偉大なり。

「まあまあ、ミトちゃん、ミトちゃん。
入っていただいて、入っていただいて。
あらあらあらあら、ツキちゃんも、ツキちゃんも。
さあさあさあさあ、入って入って~」

う──ん。親子だと、繰り返し話法で話すのか?
あ、でもツキミにもか。女性同士は繰り返し?

こういう古い土地には、よそ者にはあずかり知らぬ慣習が……。

「あれは、おばちゃんの興奮したときの口癖やから、気にせんでええで」

横を歩きながら、ツキミが低い声で言った。
なんでキミは、俺の考えてることがわかるんですか? いつもいつも。

「お父さーん。ミト、帰りましたよー」
玄関を入ったところで、お母さまが奥に向かって叫ぶ。
その語尾が消えないうちに、玄関横の障子がシターンッと開いて、
お父さま(たぶん)が飛び出してきた。

「ああ、ああ、いらっしゃい、いらっしゃい。
スサノオくんか、スサノオくんか。よくきた、よくきた」

似たもの夫婦?
俺の隣でツキミが肩を震わせてニヤニヤしながら、
小さくうんうんとうなづいている。

見た目は似てないけどな。
お父さんの方は、色黒でがっちり系。
体育の先生って感じの人だ。ジャージ履いてるってせいもあるけど。

でもなんでジャージ?

家が神社ってことは、お父さんは神主さんなんじゃないんですか?
神主さんていったら、あの浅葱色(?)の袴だよね。

「まあまあ、お父さんたら、お父さんたら、
まだそんなカッコして、まだそんなカッコして~」

「いいじゃないか。休みなんだし」

?? 休み? 神社が休み?

「父は小学校の教員をやってますの~。 
神主さんのお仕事は兼業なんですのよ~」 

ミトちゃん、キミも俺の心が読めるようになったんですかっ!?

「スサノオの反応が、わかりやすすぎるんや」

そうですか。
 

通されたのは、いかにも地方の大きな家のお座敷って感じの和室だった。
床の間があって、天然木でできてるらしい大きな座卓があって、
あとはあんまり物がない。がらーん。

ふかふかの座布団が、ちょっと落ち着かないです。

「お昼まだでしょ、まだでしょ。
おそうめんだけど、おそうめんだけど、好きかしら、好きかしら」

「あ、いや、あ、いや、好きです、好きです」

うつっちゃったよ。

そんな俺を、うふふと笑って、ミトちゃんはふわっと立ちあがった。

「お母さん、お姉さまはお部屋?」

「そうよ」

「じゃ、ちょっと行ってくるわね~」

え? お姉さま? ミトちゃんが行くなら俺も御挨拶に……。

「大丈夫やから、座っとき」

ミトちゃんの後を追おうと腰を浮かせた俺を、
ツキミが引っ張って座布団に引き戻した。
だってだって、大丈夫じゃないよ。
俺の安心の白い光ちゃんが~……。

ミトちゃんの後ろ姿を見送る俺の目の端に、
ツキミの右手が、なにかを空中に描くようにスイッと動くのが見えた。

?? 虫でもいましたか?

「ミトのお姉ちゃんのイチコちゃんな、 
いわゆる引きこもりちゅうやつなんや。 
他人と会うのがしんどいんやて。 
ほっといてあげてや」

ああ、他人様のご家庭にはそれぞれ事情ってもんがありますからね。
了解~。

それよりもさっきの右手の動きって……。

「さあさあさあさあ、食べて、食べて~」

ミトちゃんのお母さんが、大きなお盆にそうめんと、
色とりどりの薬味や漬物を盛ったお皿を乗せてやってきた。
ツキミが立って、配膳を手伝う。

ふーん、なんか女の子っぽいじゃん~。

とか感心して、ぼーっと見てたら、

「あんたも手伝わな、食わせへんで」

と、三人分の小皿と箸を手渡された。

ごもっともです。はい。

ミトちゃんとツキミと俺の席の前に、小皿と箸を並べてまわる。
お父さんはさっき、俺らをこの部屋に案内して
「まあまあ、まあまあ、座って、座って」
と言って出ていったきり、まだ戻らない。

「あの、お父さんは……」

お母さんに聞いてみる。
特に今聞かなくともいいようなことだけど、
こう~、初対面の俺としては、黙ってるのが非常につらいんですよ。

そういうもんでしょ?

「お父さんと私は先に食べちゃったのよ~。
いいから、いいから、食べて、食べて~」

お母さんにすすめられて箸を持ったところに、
ミトちゃんが戻ってきた。

「ごめんなさいね~」

いえいえ、なんの。

「お先にいただいてまふ」

そうめんを口に入れつつ言う。お行儀悪し。

戻ってきた白い光のそばで食べる冷たいそうめんは、おいしいですよ。

……ん?

でも、今ミトちゃんがそばを離れてる間も、
なんの気配も身のまわりに感じなかったのは、なぜ?

結界張るのも忘れたのに。
短い時間だったけど、こういうときこそ、
どわーっとなんかが湧いてきたりするもんなんですけどね。
気配も感じないなんて、そんなこと今までなかったような……。

この家自体が結界になってるとか?
う──ん、そんな風には感じないけど。
神社だから?
あんま関係ないんだけどね、他では神社だろうが寺だろうが。

ここはミトちゃんちだから? 

う──ん。う────ん……。

「高木さん~、どうなさったの~? 
そうめん、お口に合わないかしら~?」

考え込んじゃって、箸が止まっちゃってたらしい。
ミトちゃんとお母さんが、心配そうに俺をうかがっている。

「あ、いえ、あ、いえいえ、そんなことないです~。
あのちょっと考え事を……」

あわててそうめんを口に詰め込む。うぐぐ。

「そうよねえ。お父さまのこと考えたら、ご心配よねえ」

お母さんが両手を胸の前で組み合わせて言う。
あ、そっちに行きましたか。まあそういうことにしといてください。
とりあえず、うぐうぐとうなずいてみる。

「あの七年前のときから、行方不明のままだったんですってねー。
全然、存じあげなくってー。ごめんなさいね」

あいや、そんな、謝られても。
うぐぐぐ。
首を振りたかったけど、そうめんが口からはみ出したままだからやめておいた。

「七年前にうちにいらしたときにね、
もう一度祠に行ってくるって言って出ていらしたあと、
うちにはお戻りになられなくってね。
その、ちょっとその、変わった方っていうのかしら?
あ、あらあら、ごめんなさいね、ごめんなさいね。
でもでも、学者さんにはよくあるんじゃないかと思うんですけどね、
研究一筋で、あまり他のことは頓着しない方っていらっしゃるでしょ?
すごいなって思いますのよ。
そういう、打ち込めることがおありになるってね」

あ、そんなに気を遣っていただかなくともいいです。
うちの親父がヘンなだけです。

「なもんでね。祠に行かれたっきり、
うちの方には戻られなかったのだけど、
まあ、その、なにかお考えがあって、
そのままお帰りになったんだろうって。
そんな風に思ってしまいましてね。
もうもうホントに、この間ミトから高木さんのお話を聞くまで、
ずーっとそう思い込んでたんですよ~。
正直言って、申し訳ないことだったんだけど、
私なんかもう忘れかけてましたし~。
お父さんなんか、七年前のときは、
挨拶もなしに帰るなんてって、怒ってたりね~」

「おいこら、おまえ! なに余計なこと言ってんだ!」

シターンッと障子を開けて、お父さんが入ってきた。



[第四章・彼女のお宅訪問 -3]へ、つづく

↓1日1回ポチッとよろしく。励みになりますです。
 
PR
この記事にコメントする







  Vodafone絵文字入力用パレット表示ボタン i-mode絵文字入力用パレット表示ボタン Ezweb絵文字入力用パレット表示ボタン

この記事へのトラックバック




ごあいさつ
稀人舎ロゴ
個人で出版活動をしている[稀人舎](キジンシャ)と、申します。
「稀人」の訓読みは「マレビト」
つまり、「マレビト」とは、[稀人舎]を運営している者のことです。
このブログは、まだ本になっていない作品を入れておく場所……「引き出し」です。
お読みになられましたら、ぜひご意見・ご感想をお寄せください。
好評なものは、「引き出し」から出して、本にすることもあるかもしれません。

ここに公開している創作物の著作権・出版権等の権利は、その作品の著者にあるものとします。
無断転用はおやめください。
なにかにご紹介いただけるときなどは、
[稀人舎]まで、ご連絡ください。
よろしくお願いします。
あ、リンクはフリーでございます。何卒よろしくお願いいたします。
最新コメント
[04/28 ゆっきー]
[11/18 管理人]
[11/17 ちあき]
[02/15 管理人]
[02/15 ちあき]
稀人舎の本
未入籍別居婚~私の結婚スタイル~
未入籍別居婚~私の結婚スタイル~
シングルマザーとシングルファーザーの結婚は、問題山積みで… 家族も自分たちも幸せになるために、彼らが取った方法は…?

飲んだくれてふる里
飲んだくれてふる里
山形県鶴岡市の思い出エッセイ集。鶴岡の飲み屋で拾った、ちょっと懐かしい話がいっぱいです。
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
アクセス解析

AdminControlMenu: AdminMenu | NewEntry | EditComment | EditTrackback

忍者ブログ [PR]