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マレビトの引き出し

[稀人舎]読み物コーナーです。 和風ファンタジー連載中。

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第五章・扉の向こう -5

振り向くと、扉の向こうでは、
ミトちゃんとツキミが不安そうな顔をしてこっちを見ている。
ミトちゃんの口がぱくぱく動いて、
ツキミがうなずいているけど、声は聞こえない。
たぶん、向こうからこっちはもう見えてないんだろうな。
ミトちゃんの視線は焦点を結んでないし、
ツキミとはなんだか目が合っちゃったけど、その表情は動かなかった。

不思議なのは、観音扉を向こう側に向けて開いたはずなのに、
こっち側にも同じように開いた扉があることだ。
ま、鏡のあっちとこっちってことなのかね?

こっちから手だけを向こうに突き出したらどうなるんだろうと、
ふと思って、やってみた。

「あ、びっくりした~」

急にミトちゃんの声が、聞こえる。

向こう側にあるのは俺の手首から先だけなのだけど、
それに繋がる俺の顔も向こうからは見えるようになったらしい。
俺の目を見て、ミトちゃんがちょっと笑った。

「なんやの? 忘れ物?」

「あ、いや、なんでもない」

今、ツキミの口調にちょっとした違和感を感じたのだけど、
なんなのかはわからなかった。

じゃあね、と手を振って引っ込める。

う──ん。
穴の外に出てみないわけにはいかんでしょうなあ。

心細いよう~。

出口から首だけ出して外を見てみる。
姿勢は中腰。そろそろ腰がつらくなってきましたよ。
一気に外に出て、思いっきり伸びをしたいです。

穴の外には、ほぼ同じ山の中の風景があった。
まわりを木に囲まれたちょっとした平らな場所があり、
その向こうには下りの道が続いているようだ。

よし、外に出よう!

と決心して、その前に何の気なしに穴の奥を振り返ってみて、
ぎょっとした。

扉が、閉まっている……。

あわてて戻って、扉を開ける。

扉の向こうには、さっきと同じミトちゃんとツキミの顔が見えた。
また手を突き出してみる。

「あ、びっくりした~」

「なんやの? 忘れ物?」

また二人して同じことを言う。
まあ、何度も消えたり現れたりしてたら、こう言うしかないか……。

「あ、あのさ。ちょーっと奥が深いみたいだから、
俺、この先も調べてみるから」

穴から出て山道をおり、なにがあるか見てくるだけでも
三十分くらいはかかるだろう。
ほんの小さなお堂の中を調べるだけだと思って、
そこで待ってる二人やお父さんに心配をかけたらいけないと、
俺はひと言断っておくことにした。

「だから、う──ん。一時間くらいかかるかもしんない」

「そんなに?」

ミトちゃんが目を丸くする。

あ、もう、そんなに心配してくれなくとも~~。

「うん、いや、なにがあるかわからないからさ……」

「あぶなくないんですの~?」

「うん、それは大丈夫そう」

わからないと言いながら、大丈夫そう、とはこれいかに!

説明のしようがないんで、ヘンテコな言い方になっちゃうんだよ。
ごめんよミトちゃん。

さらに、一時間たっても戻らなかったら……と言いかけて、やめた。
余計な心配させるだけだし。そんときはそんときだ。えーい。

「こっちはちゃんと待ってるから、はよ行きや」

なんか、冷たいよツキミ。まあ、いつものことだけどさー。

んじゃ、行ってきます。



[第五章・扉の向こう -6]へ、つづく

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